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又吉直樹「火花」レビュー

シュールだけど純粋に面白い

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 神谷の人間性

 私を含む多くの人は、神谷のような人間を、「ただテンションが高くて痛々しい人」と思って、深く関わろうとはしないと思う。

しかし主人公徳永は、そんな神谷に「何か」を見出し、憧れや尊敬の念を抱くようになる。

正直、神谷のギャグは全然面白くない。

しかし読み進めるうち、彼が物事の真贋を区別できる鋭い洞察力や、深い人生哲学を持っていることに気付かされる。

 

実は天才?

たとえば、

「新しい方法論が出現すると、それを実践する人間が複数出てくる~批評をやり始めたら、漫才師としての能力は絶対に落ちる」

といった、表現のスタイルやその批評に対する雑観、

さらに

「俺の人格も人間性も否定して侵害したらいいと思うねん~面白くないからやめろって」

と、世間の人の心ない批判に対しての意見などには、本当にハッとさせられた。

ただこの人はバカを演じているだけであって、本来は賢くて純粋な人なのだと思った。

そして彼の中に価値を見出すことのできた徳永も、人の本質を見極められる人なのだと思う。

 そんな神谷が、最後に落ちぶれていく下りは、本当に悲しいものがあった。

一方の徳永は、小さな成功を収めて、自分の軸が定まっていくのだが、その対比で神谷の迷走ぶりがますます際立ったものに思えてくるのだ。

 

物事の神髄を見極めるべし

「つまらなかった」とか「太宰の真似」だとかいう感想が多いが、表層的にしか物事を見ていないだけだと思う。

文体がどうとか、話題性がどうとか、そういったことはくだらないしどうでもいい。

少なくとも私は、物事の本質を捉えて理解しようとする人間でありたいと思う。

 

Written by ユカ@コーヒー