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カズオ・イシグロ「日の名残り」レビュー(ネタばれあり)

 笑いあり涙ありの感動スペクタクル

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あらすじ

かつてダーリントン卿に仕えていた執事、スティーブンスは、新しい家主ファラディの許可を得て、一週間の慰安旅行に出かける。

その間、同じく執事であった父、恋心を寄せていた女中頭、ミス・ケントンや、故ダーリントン卿の思い出を語る回想録。

 

魅力的な登場人物たち

一流の執事とはどういったものかと自分に問いかけ、また自らそうあろうとするストイックなスティーブンス。

感情表現豊かでときにツンケンするといった、愛らしい魅力を振りまくミス・ケントン。

そして偉大な執事であった、亡き父との思い出や、財政界の大物と肩を並べ、第一線をわたり歩いてきたダーリントン卿が、最後にナチスに利用され、すっかり落ちぶれてしまう顛末など、

第一次世界大戦から第二次世界大戦の頃のイギリスを舞台とした、諸所の人間ドラマが繰り広げられる。

 

笑いを誘うエピソード

父やダーリントン卿の最期のエピソードや、ミス・ケントンの最後のモノローグなど、涙なしでは読めない話の合間に挟まれた、旅のエピソード

――ちょっとしたアクシデントに見舞われたり、変な村人に絡まれたり、が笑いを誘う。

 生真面目で礼儀正しいスティーブンスだが、ファラディに仕えるにあたって、ラジオなどを聴いて、ひそかにジョークを練習している。

しかし旅先の人やファラディに対するとっさのジョークが滑りまくり、本人のジョークよりはむしろ、そういった周囲に振り回される彼自身の身の上話のほうがむしろ面白い。

 

ティーブンスとミス・ケントンの恋愛模様

またスティーブンスが、語彙力強化のために読んでいた女性向けの恋愛小説を、ミス・ケントンにからかわれる場面も。

しかし恋愛小説を読みまくっているわりには、ミス・ケントンの女心はまるで読めない。

そのため彼女のわかりやすいアプローチを事あるごとに無視してしまい、結局結ばれないまま終わってしまう。

しかし旅の最後のシーンで、彼女と20年ぶりに再会する。

 

そんな笑いあり、涙ありの感動スペクタクル長編である。

 

Written by ユカ@コーヒー