「なぜ人は困った考えや行動にとらわれるのか?」を読んだ
脇本竜太郎著「なぜ人は困った考えや行動にとらわれるのか?」
「存在脅威管理理論」とは?
「自分自身が死ぬということについて考えると、どのような気持ちになりますか?」
この問いに対しての回答として挙げられるのが、社会心理学における理論の一つ、「存在脅威管理理論」である!
存在脅威管理理論では、「ある種の死の恐怖」を和らげてくれるような心的防衛メカニズムが人間に備わっていると考える。
しかしこの防衛メカニズムによって、人間は不合理な判断や行動をしてしまう!
存在論的恐怖とは?
存在論的恐怖とは、「自分の死は避けることができず、それがいつ訪れるかわからないという認識から生まれる恐怖」のこと。
これは「死の危険に直面する恐怖」とはまた異なったものである。
本の概要
この本では、存在恐怖管理理論の中核をなす3つの重要なトピック、「自己についての幻想」、「よそ者を排斥する理由」、「関係性を求める理由」と、筆者が選んだトピックである、「格差と平等の幻想」、「母性愛神話」、「伝統という幻想」について、存在恐怖理論研究をはじめとした、様々なエビデンスに基づく知見から論じている。
トピックの主題には、次のようなものがある。
・自尊感情が高いほど、ポジティブな考えをすればするほど、精神的に安定するという説は間違いである?
・なぜ人は内集団をひいきし、外集団を見下すのか?
・人との関係性を求めることで、存在論的恐怖が緩和される?
・公正ではない世界で、格差や貧困などを是正する必要性
・母性愛神話を信仰する危険性について
・「江戸しぐさ」に代表される伝統的価値観をうのみにしてはいけない?
・ゆとり教育批判は的を射ていない?
また存在論的恐怖を意識すると人間は、次のような行動をする。
・自分の支持する文化的世界観、価値観を尊重し、それにそぐわない人を批判する
・従来のステレオタイプ的価値観(差別・偏見)を支持し正当化する
・異性が魅力的に見える
・結婚相手を妥協してもよいと考える
・不公正な出来事に遭遇したときの防衛反応(被害者非難など)が強くなる
など
また存在論的恐怖による良くない影響に対しては、次のような方法で対処できる。
・存在論的恐怖についての知識を持ち、良くない影響による状況を避けたり、意識して望ましい行動に変える
・外集団に対する差別・偏見などの否定的反応を、人との関係性を求める反応に置き換える
・寛容さについて意識する
・「自分はアイツらと違う」という発想を変える
感想
様々なエビデンスを用いて、冷静かつ理論的に著者の意見が述べられている。
ただし言いたいことはごくシンプルなわりに、言葉遣いや表現が堅苦しいため、難解で敷居が高く、読む人を選ぶ印象。
また著者の言いたいことを端的にまとめると、こういうことだと思う。
・自分に対する自信はほどほどでよい。それよりも人のためになることをしよう。
・あからさまな差別はやめ、多様性を意識しよう
・身近な人との関係性を重要視するあまりに、身近でない人を非人間扱いしないようにしよう。
・自分よりも不幸な人たち、恵まれない人たちにも意識を向け、安易な格差推進論や自己責任論を助長しないようにしよう。
・母性愛神話や伝統と言った、世の中で広く受け入れられている価値観についても、それがもたらす負の側面について十分に吟味し、安易にうのみにしないようにしよう。
・外国の人や自分と意見が異なる人たちに対しても、なるべく共感できる要素を見つけ、寛容な心を持って、差別意識を持たないようにしよう。
・こうした心がけを人々が実行しやすいように、社会の基盤から整えていこう。
これらの意見には、おおいに賛成するし、またこのような意識が社会に根付いていったら、この世の中も少しは今よりマシになる気がする。
Written by ユカ@コーヒー